かがわ・山なみ芸術2016、綾川町エリアにおいて約2か月半の滞在制作をしました。
綾川町エリアは「今との対話」というテーマ設定があり
作家と地域、作品と鑑賞者、鑑賞者と地域…作品・芸術祭を通して生まれる対話にフォーカスを当てていました。
大学を卒業してからこれまで「衣装家」「パタンナー」として制作の場に、身を置いてきましたが
一作家として作品を発表するのは、卒業制作ぶりとなります。
そうしたなかで、果たして何を提案したらよいのか
迷いに迷った挙句(インスタレーションとか、それらしいプランも考えたりもしましたが)結局予約したフライトの日となり
3月1日から香川県、高松空港から程近い綾川町での滞在制作が、プラン未定のまま始まりました。
結論として、綾川エリアのボランティアスタッフ(ウリボウズと呼びます)のみなさんのユニフォームを作品としました。
企業による潤沢な資金による「トップダウン型」に対し、「ボトムアップ型」を掲げる山なみ芸術祭は、多くの地元ボランティアスタッフの力で成り立っています。
その全員の方のユニフォームは、さすがに作りきれませんので
なかでも綾川エリアに特化した「わいわいガールズ」さんと
作品ガイドをしてくださる「ナビゲーター」のみなさんを対象としました。
特に「わいわいガールズ」さんは、会期2か月前からメイン会場の掃除、花壇の整備、会期中の受付など本当に強力なサポートを頂きました。
初の地域芸術祭に参加、一番に驚いたのは、こうした地元ボランティアの皆さんのエネルギーです。
果たして綾川が特殊なのかどうかはわかりませんが、芸術と生きる力は分かち難く一つだと感じる経験となりました。
香川ものづくり学校(旧枌所小学校)、2階渡り廊下が制作・展示の場になりました。
3月1日、まだ息も白く冷え込む学校の廊下、果たして大丈夫だろうか。。。
この時はまだミシンを自宅から送り、なんとか自分の道具でやろうと考えていましたが、運よく地元の方から工業用ミシンをお借りすることが出来ました。
漠然と「地元の人の服を作るしかないだろうな…」という予感から、ボランティアスタッフさんとの顔合わせを設定してもらいました。
まずは掃除。自宅アトリエも、まずは掃除から始めるので儀式のように掃除を始めました。普段はこぢんまりとした空間にいるので、広い場にそわそわとして落ち着きません。
案の定廊下は底冷えし、4月中頃まではアウターを着こんで白い息を吐きながら制作をしました。会期が始まる頃には、日の出から午後の西日、日没まで太陽光が降り注ぐ心地よい場となりました。おかげですっかり日に焼けました…!
初回のボランティアスタッフさんとの顔合わせで、一体何を作るか自分自身も迷っている旨を伝えました。限られた予算と時間のなか、漠然と衣服を作ることは苦痛としか思えませんでした。
そうした中で、「わいわいガールズさん」は平均年齢64歳とは思えない、元気な仲良しグループでした。
実際に、ユニフォームとして必要なものは…その時みなさんが学校のお掃除の為に持って来ていたのは、エプロンや割烹着。また、お話しているうちに、みなさんおしゃれが好きで、捨てられない服がたくさんあることが話題に上がりました。
一人ひとり、捨てられないけれど眠っている衣服を持参してもらい、それらをエプロンとアームカバーに作り替えてユニフォームにすることにしました。
ナビゲーターさんは屋外での案内も視野に入れ、帽子と、資料を持ち歩くバッグを同様の方法で作ることになり、方向性は見えました。
一人ひとり、似合うものを作るには、相手の人となりを知らないと作れません。これは衣装製作と全く同じプロセスであり、自身が作っているものの主軸は衣服ではなく「からだ」にあることが再認識されました。
これまでも、着る人が分からない衣服は(企業パタンナーとしては別として)作れなかった理由がわかりました。時間も気力も、労力もかかるこの手法を経ることで、着る人にとって本当に意味のある「衣服」=HAReGIを作ることができます。
持参してもらった衣服を手掛かりに、一人30分、長い時は1時間半ほどお話を聞きます。その服を買った(仕立てた)経緯、その時の生活、今まで持っていた理由、今の生活…たくさんの物語が紡がれていきます。メモを取り、最後に採寸をします。
これまでは均整のとれた、ある意味特殊な身体をもつダンサーの衣装ばかりを作ってきました。今回向き合うのは一人ひとり、60年の時間を積み重ねた唯一無二のからだです。背中の長さのバランス、肩の傾斜、必要なウエスト紐の長さもこれまでの経験とは違っています。ですが、基本的にやっていることは衣装と変わりません。
いかに相手の、内側を掴んで衣服という形に落とし込むか、です。
屋外展示も含む綾川エリアにおいて、展示の案内をするナビゲーターの存在は必須です。
帽子をつくるにあたり、ナビゲーターの一人である安田さんのお姑さんが生前こつこつと作っていた帽子の存在を知りました。地域の方は驚くほどの高確率で「安田さんの帽子」を持っています。
残念なことに型紙はみあたらないとのことなので、実物を採寸し型紙を復元させました。復元した形から、香川の山の形(讃岐富士と称される、お椀を伏せたような形)をデザインに加味した「山なみ帽」を制作しました。
バッグもお揃いで、素材(着物の帯、こどものスーツ、酒屋の前掛けなど)を活かした形、かつエリアパスポートが収まるサイズを基準に制作をしました。
展示場所である渡り廊下は、外光と風の抜ける非常に開放的な空間です。
着用していない衣服は未完成という認識があります。
上下可動式、滑車付きの吊り展示にし、着用時は吊りの紐を手元で緩めて展示の場で着用してもらうことにしました。着替えも所作によるパフォーマンスとして作品に取り込みます。
着用時はハンガーとデザイン画のみが廊下にぶら下がった状態になります。
来場者は、デザイン画に描かれているエプロンを着たスタッフさんが、会場のどこかでお仕事をしてくださっているのを探すことができます。
ハンガーは地元の材木・家具屋「いなもく」さんに依頼し、竹細工師の斉藤さんという方にオリジナルで制作して頂きました。
会期中は、随時承った制作依頼を公開制作していました。
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